惑星磁場が大気の流出を必ずしも抑制しない理由

近年、惑星の固有磁場は必ずしも惑星大気を恒星風から守るわけではないことが分かってきました。新しい研究では、磁場を持った惑星で大気の散逸(流出)が増加するメカニズムを調べられました。

固有磁場が無い/弱い惑星の大気散逸。

惑星の大気はいくつかの経路で流出しています。特に太陽系の地球型惑星のような窒素や二酸化炭素を主な成分とする大気では、大気の一部がイオン化した後に、恒星風(=恒星から放たれる希薄な物質の流れ)によって運び出される効果が重要です。

地球の強い磁場は、古くから、太陽風(=太陽の恒星風)を遮ることで大気の流出を抑えると信じられてきました。しかし近年の観測では大気流出率は金星・地球・火星(※金星・火星は磁場を持たない)であまり変わらないことが分かっています。また理論面からも、磁場の存在は必ずしも大気散逸(流出)を抑制しないことが複数の研究で示されています。


コロラド大学に所属する Hilary Egan 氏らアメリカ・フィンランドの研究グループが『Monthly Notice of the Royal Astronomical Society』(王立天文学会月報, MNRAS)に投稿した研究は、弱い磁場を持つ惑星で大気の流出が増加する理由を調べたものです。

イオン散逸を含む大気散逸(流出)が起きるのは、惑星磁場と恒星風が相互作用を起こすことが原因です。研究では火星サイズの惑星と、火星が受ける典型的な太陽風の条件を想定し、酸素のイオン(O+, O2+)が散逸する過程のシミュレーションを行いました。恒星風が抱える磁場は惑星磁場と直交する向きを持つと仮定され、惑星磁場は磁場の強さを表す磁束密度が0~150nT(nT=ナノテスラ)の範囲を調べました。

※なお地球の磁場は赤道で約4万nTです。

結果

シミュレーションの結果、0~50nTの間では磁場が強いほどイオン散逸率は高くなった一方、50~150nTでは磁場が強いほど散逸率は低くなりました。散逸率がピークに達した50nTの条件では、磁場が無い状況と比べて約3倍の散逸率が見られました。

50~150nTの範囲では、散逸率は磁場の強さ(磁束密度)の約0.67乗に反比例して減少していきました。この法則を延長すると、地球のような磁場の強い惑星では散逸率は非常に小さくなるはずですが、実際にはどこかでこの法則性は破れるとみられます。

メカニズム

シミュレーションの結果を詳しく調べたところ、2つの異なる効果のバランスで散逸率が50nTでピークを迎えていたことが分かりました。

惑星大気に由来するイオンの一部は宇宙へ向けて飛び出していきます。今回仮定された恒星風の磁場(惑星磁場と直交)では、恒星風に遭遇したイオンは北半球では惑星から離れる方向に・南半球では近づく方向に加速されます。

固有磁場が無い/弱い惑星の大気散逸。
惑星と太陽風(恒星風)の磁場が直交している場合の固有磁場が無い/弱い(<150nT)惑星の大気散逸。

磁場の弱い惑星では、恒星風は惑星の近くまで達します。南半球から散逸するイオンは低い高度で恒星風に遭遇し、惑星へ戻る方向へ曲げられます。その先には惑星本体が物理的障壁として待ち構えているため、散逸が抑えられます。

惑星磁場の影響が強くなるにつれ恒星風は惑星に近づきづらくなり、散逸するイオンは恒星風に遭遇する前に高高度に到達するようになります。この状態でイオンが向きを変えても、惑星本体が障壁として働く可能性は低くなります。これが0~50nTで散逸率が上昇した理由です。

磁場がさらに強くなると、惑星の周りの「閉じた磁力線」の範囲が広がります。閉じた磁力線はイオンを捕獲する働きがあるため、イオンの散逸は少なくなります。これが50~150nTで散逸率が減少した理由です。


今回の研究は、火星に似た磁場の無い/弱い惑星を想定したものです。これまでの研究では、磁場の強い惑星では磁気圏の北極・南極部分から散逸するイオンが増加することで散逸率が上昇することが示唆されていますが、これらは今回の範囲外です。

また研究では恒星風の磁場は惑星磁場に直交すると仮定されましたが、実際の太陽風は磁場の向きも強さも大きく変動します。様々な条件で磁場の弱い惑星にどのような現象がみられるかはより詳しい研究が必要とされています。

Egan氏らの研究は2019年7月3日にMNRASに掲載されました。

参考文献

  • Hilary, E. et al., 2019, “Planetary Magnetic Field Control of Ion Escape from Weakly Magnetized Planets”, MNRAS 488, 2108 (arXiv:1907.02978).

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カテゴリ:居住可能性

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