K2ミッションのデータを再分析した研究で、3つの惑星系に4つの惑星が新たに確認されました。これらの系ではそれぞれ異なる理由で惑星の発見が妨げられていました。

「ケプラー」宇宙望遠鏡は恒星の手前を横切る系外惑星が恒星の光を遮ること(=トランジット)を利用して惑星を探しました。2014年から2018年に延長ミッションとして行われた「K2ミッション」では指向精度の低下を抱えながら、1か所当たり約80日間の比較的短期間の観測が行われました。
2018年に打ち上げられた系外惑星観測衛星「TESS」はいくつかの点でケプラーの主要ミッションよりもK2ミッションに似ています。TESSは設計上ケプラーより指向精度が劣り、観測期間も一か所当たり27日に過ぎません。これらのことから、K2ミッションはTESSのデータを活用する上で大いに参考になると考えられています。
米ベイエリア環境研究所に所属する Christina Hedges 氏らが『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に投稿した研究(リンク)は、K2のデータから未発見の惑星を探すとともに、これらの惑星が今まで見つからなかった理由を調べることで、TESSのデータ分析について教訓を引き出そうというものです。
研究チームは、既に惑星が見つかっている系を再分析し、3つの惑星系で4つの惑星を新たに確認しました。このうち2つは未確認の惑星候補として知られていた天体ですが、残りの2つは全く新しい発見です。
K2-43系の場合
「K2-43」系では、地球の4.5倍の半径を持つ既知の惑星「K2-43b」の内側に、惑星「K2-43c」が見つかりました。この星は地球の2.4倍の半径を持ち、2.4日周期で公転しています。
これまでK2-43cが見つからなかった理由は、望遠鏡の姿勢変化に由来するノイズを「光度曲線」(光度変化の時系列)から取り除く工程にありました。
姿勢制御に不具合を抱えて行われたK2ミッションでは、ロール方向(望遠鏡の長軸を中心に回転する方向)の変動が影響します。K2-43bが見つかった当時、このノイズはSFF (Self Flat-Fielding)法と呼ばれる技法で取り除かれていました。今回はその後に導入されたPLD(Pixel Level Decorrelation)法を用いることで光度曲線のノイズを減らし、惑星cを発見することができました。
TESSではK2と若干異なり、ランダムな方向への小刻みな姿勢変動が問題となります。SFF法はこのような状況に特に適しておらず、TESSの分析にはPLD法が推奨されています。
K2-168系の場合
「K2-168」系では公転周期16.8日の既知の惑星「K2-168b」の内側に「K2-168c」が見つかりました。この星は地球の1.3倍の半径を持ち、8.05日周期で公転しています。惑星bとcの公転周期はほぼ2:1で、「軌道共鳴」に近い状態です。
偶然にもK2-168系では、惑星bとcがほぼ同じタイミングでトランジットを起こしていました。惑星bはcの約2倍の周期を持つため、2つのトランジットが立て続けに起きるか、惑星c単独のトランジットが起きるかになります。
惑星系に第2の惑星を探すには、最初に見つかった惑星を除いたデータを再分析する必要があります。その方法として、最初の惑星のトランジット前後を光度曲線から削除する方法が広く用いられています。K2-168系では、再分析に向けて惑星bのトランジットを除く時に惑星cのトランジットの一部が「巻き添え」になっていました。
また光度曲線の周期性を抜き出す過程にも落とし穴があります。周期性の分析では真の周期の整数分の1の周期に偽の周期(=高調波)が表れることがあります。K2-168cのような、軌道共鳴またはそれに近い惑星はこの高調波と誤認される可能性があります。
K2-168系の周期は厳密な整数比ではないため、観測を続ければトランジットのタイミングが次第にずれることにより2つの惑星を見分けることができたはずです。しかし観測期間が約80日しかないK2ではその効果はあまり期待できません。一か所当たり27日しか観測しないTESSでは、このような問題に十分に配慮した分析を行う必要があります。
K2-198系の場合
「K2-198」系は地球の4倍の半径を持つ既知の惑星の「K2-198b」の内側の軌道に、2つの惑星「K2-198c」「K2-198d」が確認されました。この2つは2016年に惑星候補として報告されていましたが、これまで未確認でした。惑星cとdはそれぞれ地球の1.4倍と2.4倍の半径を持ち、3.35日と7.45日周期で公転しています。
この系の特徴は、主星が半周期的な変光を示していることです。これは恒星表面の不均一性(黒点など)によるものと見られます。
恒星由来の変光は、一般的に、トランジットを探す前に近似曲線を当てはめて補正されますが、この方法ではトランジットの減光が補正対象に含まれてしまいます。曲線の変化をゆっくりとしたものに制限すればトランジットが「埋め立て」られる事態は避けられますが、いくらかの悪影響が残ります。
今回の研究では、このような単純な方法の代わりに、「ガウス過程」という技法で恒星の変光を補正する方法が用いられました。この方法は補正に伴う影響を最小限に抑えられます。
TESSのターゲットにはK2-198のような変光星が多く含まれるため、恒星の変光を適切に取り除くことが重要になります。
近年、K2やTESS向けに、新しい有用な処理を実現するプログラムが数多く公開されており、今回の研究もそれらを用いて行われたものです。
今回の研究は、K2ミッションの3つの惑星系を例にとり、新しい処理がなぜ惑星の発見に有用なのかを具体的に示した意義のある研究と言えます。
Hedges氏らの研究は2019年7月20日に『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』(ApJL)に正式に掲載されました。
参考文献
- Hedges, C. et al., 2019, “Four Small Planets Buried in K2 Systems: What Can We Learn For TESS?”, ApJL 880, L5 (arXiv:1907.08244).