昔の太陽に酷似した星「HD 140538」

恒星「HD 140538」が3.9年周期の活動サイクルを持つことが長期の観測で明らかになりました。この星は10~20億年前の太陽によく似た星と見られます。

CaII H・K線と恒星の活動性

太陽表面の黒点は、磁場の周期的な移り変わりを反映して、約11年周期で増減を繰り返しています。同様のサイクルは太陽以外の恒星でも見つかっています。

独ハンブルク大学に所属する M. Mittag 氏らが7月10日にarXivに投稿した研究(arXiv:1907.04575)は、へび座にある6等星「HD 140538」(別名:へび座プシー星)の活動周期を調べたものです。HD 140538は太陽系から48.2光年の距離にある太陽によく似た星です。


何十光年も離れた位置にある恒星の活動性をどのように調べるのでしょうか?恒星のサイクルは、可視光での明るさ自体にはごくわずかな影響しか与えません。しかし恒星のスペクトル(光を波長ごとに分化敷いたもの)を詳しく調べれば、活動の消長を読み取ることができます。

CaII H・K線と恒星の活動性
CaII H・K線と恒星の活動性。CaII H・K線は静穏な恒星では2つの暗線(光の強度の低下)として現れるが、活動性が高い恒星では暗線と輝線が重なった形で現れる。

研究では活動性を測る指標として、「Ca II H・K線」と呼ばれるスペクトル上の特徴を調べました。Ca II H・K線は、静穏な星では、波長393.5nm(Ca II H)と波長396.0nm(Ca II K)の隣接した2つの暗線として表れますが、活動性が高まると暗線と輝線が重なったパターンを持つようになります。Ca II H・K線の強さを定量化する指標としては、古くから使われている「Sインデックス」(S-index)とよばれる値が用いられました。

研究チームはメキシコのラ・ルス天文台にあるTIGRE望遠鏡で太陽に似た恒星の継続的な観測を行っており、HD 140538はそのターゲットに含まれています。今回の研究では、TIGREを含めた4つの設備で1990年代以降に集められたHD 140538のスペクトルを分析しました。

  • TIGRE望遠鏡(メキシコ・ラ・ルス天文台)
  • ケック望遠鏡(ハワイ州マウナケア天文台群)
  • SMARTS 1.5m望遠鏡(チリ・セロトロロ天文台)
  • SSS(=Solar-Stellar Spectrograph 口径1.2mの望遠鏡を備えた観測システム、アリゾナ州)

結果

データセットを分析した結果、HD 140538のSインデックスには3.88±0.02年周期の明らかな周期性が見つかりました。これは太陽の11年サイクルと同様の現象と見られます。観測されたSインデックスの平均値は0.228で、太陽(0.169)より高い値を示しています。

またTIGREのデータから、この恒星のSインデックスが20.71±0.32日周期で変動していることが見つかりました。これは恒星の自転に対応したものと考えられています。

年齢

研究チームはHD 140538の年齢を複数の手法で見積もりました。恒星の温度・光度などの物理的性質に基づく手法では37±16億年・自転周期との相関関係に基づく手法で24±3億年・活動性指標との相関関係に基づく手法で22±2億年億年と計算されました。

※比較として太陽の年齢は46億年です。

HD 140538の自転周期は太陽(約26日・緯度によって異なる)と比べるとやや短いものです。一般的に恒星は時間を経るとともに自転が遅くなり活動性が下がります。そのためHD 140538は「10~20億年前の太陽」と非常によく似た星と見られます。

年齢やそれに関連した要素以外について見ると、HD 140538と太陽の違いは、HD 140538は太陽より1%ほど質量が大きく、金属量(水素・ヘリウム以外の元素の割合)が1割程度大きいということだけです。

長期変動

太陽の11年サイクルは完全なものではなく、サイクルの期間が11年から逸脱したり、「マウンダー極小期」に代表されるような長期的な変化を見せることもあります。これはHD 140538でも同じかもしれません。

1997年から観測を続けているSSSのデータによると、HD 140538の各サイクル毎のSインデックスは、観測開始から2010年代まで増加傾向を示していました。一方で2010年代後半にはこの傾向が頭打ちになり、普段より短い3.4年周期のサイクルが生じるなど、傾向や周期性に乱れが起きているようです。

とはいえ、これらの長期変動について確実なことを知るには、今後も継続した観測が必要とされています。HD 140538のような、太陽に似ているが年齢の異なる恒星を調べることは、太陽の歴史を知る上で重要な手掛かりになると考えられています。


Mittag氏らの研究は2019年7月10日にarXivに投稿され、11日に公開されました。コメントによると研究は『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』に掲載予定ということです。

参考文献

  • Mittag, M. et al., 2019, “Magnetic activity of the solar-like star HD 140538”, arXiv:1907.04575v1.

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カテゴリ:恒星

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