観測方法が原因? 惑星系ケプラー9の謎が検証される

近年、太陽系外惑星の観測にTTV法と呼ばれる手法が用いられ始めています。しかしTTV法で推定した惑星の質量が、他の方法で推定した質量と食い違うケースが問題となっています。

この度イタリア・パドバ大学の L. Borsato氏らのチームがarXivで公表した研究は、TTV法で観測されてきた「ケプラー9」系を他の方法で観測し、食い違いの有無とその原因を検証したものです。

過去の研究で「ケプラー9」ではTTV法と他の観測法で惑星質量の推定が食い違うことが問題となっていました。

Borsato氏らの観測の結果、TTV法以外の観測法であってもTTV法と同様の結果が得られることが分かりました。これは「ケプラー9」系の惑星質量の食い違いは、観測方法の問題ではないことを示しています。

以下は詳細な解説です(約2500文字)

TTV法とは

系外惑星の観測法にはいくつかの種類があります。

代表的なものは、惑星の公転に伴い恒星の視線速度(奥行き方向の速度)が変化することを観測する視線速度 (RV) 法 です。また、これと双璧を成すのが、惑星が恒星の手前を横切る際に恒星の光を遮る現象(トランジット)を観測するトランジット法です。

この他に、トランジット法から派生した方法としてTTV (Transit Timing Variation, トランジット時刻変動)法があります。この方法では、トランジットが発生する時刻が等間隔かどうかを調べます。仮に等間隔でなければ、その惑星の軌道を変化させる天体が存在していることが分かります。

トランジット法は惑星の質量を知ることができない欠点があり、質量を知ることができるRV法は暗い星には使えない欠点があります。そのためTTV法は二つの方法の穴を埋める手段として期待されています。

問題発生

しかしTTV法の信頼性には懸念があります。その一例が「ケプラー9」系です。この惑星系はNASAのケプラー宇宙望遠鏡のデータから発見され、TTV法の最初の実用例として2010年に公表された、系外惑星観測史のマイルストーンの1つです。

太陽に似た恒星「ケプラー9」を中心としたこの惑星系には、3つの惑星(ケプラー9b・9c・9d)が見つかっています。そのうち2つ(bとc)には大きなトランジット間隔の変動 (TTV) が知られています。

この惑星系の発見を報告した Holman氏らの2010年の研究では、惑星b・cの質量を地球の80.4±4.1倍および54.3±4.1倍としていました。この研究では、ケプラーのTTVデータと、ハワイ州ケック天文台の観測装置「HIRES」を用いて取得された視線速度 (RV) データを組み合わせていました。

しかし、ケプラーの長期のTTVデータのみを用いた2014年のBorsato氏らの研究では、惑星の質量は地球の43.5±0.6倍・29.8±0.6倍という異なる結果になりました。RVデータを採り入れるかどうかで結果が変わるということは、RV法とTTV法のいずれかに原理的問題がある可能性を示しています。

TTVデータを用いた2018年のFreudenthal氏らの研究は、2014年の推定を裏付ける結論を得ました。しかしここでは「HIRES」のRVデータを除外していたため、RV法とTTV法の食い違いは未解決のままでした。

新しい研究

この度イタリア・パドバ大学の L. Borsato氏らのチームがarXivで公表した研究は、このRV法とTTV法の食い違いの問題を扱っています。その内容は、「ケプラー9」系を新たにRV法で観測し、再分析したTTVのデータと比較検証するという物です。

新たなRV法の観測には、スペイン・カナリア諸島のイタリア国立ガリレオ望遠鏡(口径3.6m)に設置されている「HARPS-N」が用いられました。

欧州を中心に運用する「HARPS-N」は、その姉妹機である「HARPS」と共に、RV法に適した高分解能分光器として数々の惑星を観測するために用いられています。アメリカを中心に運用する前述の「HIRES」とは長年のライバル関係にあります。

「HARPS-N」は世界中の研究者から引っ張りだこで、ケプラー9の研究に利用可能な割り当て時間は限られます。そこで研究チームは、効率的な検証を行うために、予め2つのモデル(2010年のHolman氏らのモデルと2014年のBorsato氏らのモデル)を想定し、その2つのモデルを区別するのに最適な時期、すなわちモデルが予想する視線速度の差が大きくなる時期に望遠鏡をケプラー9に向けました。

懸念は解消へ

「HARPS-N」は条件の良い明るい星であれば秒速1メートルレベルの誤差で視線速度を測定可能ですが、ケプラー9の場合は秒速10メートル程度の精度しか得られませんでした。これはケプラー9が、RV法に不適な暗い星(13.9等級)であるためです。

ケプラー9では、惑星が引き起こす視線速度の変化は秒速5-20メートル程度に過ぎず、RVデータのみでは惑星の質量を求めることは困難です。しかしTTVデータと比較するには十分でな結果でした。

今回のRV法の観測結果は、統計的に見てTTV法に基づく2014年のBorsato氏のモデルをうまく説明できる一方、RV法とTTV法を組み合わせた2010年のHolman氏らのモデルは説明できませんでした。

RV法同士で矛盾が生じ、一方でRV法とTTV法で矛盾しない結果が得られたということは、少なくとも「ケプラー9」については、惑星質量の推定が食い違うかどうかは観測方法とは無関係であることを意味しています。つまり、RV法やTTV法に未知の欠陥が内在しているという懸念は緩和されたと言えます。

残された謎

今回の研究では「HIRES」のRVデータを含んだ研究が異なった結論に至った理由として、恐らく観測期間の短さとHIRESの誤差が過少評価されていたことに由来するとしています。しかしその原因は完全には突き止められませんでした。

とはいえ、これらの問題は近い将来に解決されるかもしれません。

2018年にケプラーの後継として打ち上げられた人工衛星TESSはトランジット法の観測を開始し、TTV法による分析に必要なデータも蓄積されつつあります。TESSの主なターゲットはRV法の観測に適した明るい恒星であるため、TESSが発見した惑星はTTV法とRV法の双方で観測可能です。このことからRV法とTTV法を巡る問題は最終的な解決が期待されています。

Barsato氏らの研究は2019年1月16日にプレプリントとしてarXivに投稿され、天文学の学術誌『王立天文学会月報』(MNRAS) に掲載予定です。

(4/24追記)4月に正式に掲載されました(リンク)。

参考文献

  • Barsato, L. et al., 2019, “HARPS-N radial velocities confirm the low densities of the Kepler-9 planets”, MNRAS 484, 3233. (arXiv1901.05471v1)

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