赤色矮星LHS 1140の紫外線環境

ハビタブル惑星候補を持つ太陽系近傍の赤色矮星「LHS 1140」の紫外線環境を、人工衛星「スイフト」を用いて調べた研究が公表されました。

太陽系から49光年の距離にある「LHS 1140」は、質量・半径がそれぞれ太陽の0.18倍・0.21倍の赤色矮星(低温の小さい恒星)です。2017年にこの星の周りに見つかった惑星「LHS 1140 b」(以下「惑星b」)は地球の1.7倍の半径を持ち、LHS 1140のハビタブルゾーン(惑星表面に液体の水が存在可能な領域)に収まる軌道を24.7日周期で公転しています。

※LHS 1140 bは発見当時は地球の1.4倍の半径と見積もられていましたが、ガイア衛星のデータに基づく研究で1.7倍に修正され、平均密度の推定値も小さくなりました。

イタリアのミラノ・ビコッカ大学に所属するR. Spinelli氏らの研究チームが6月20日にarXivに投稿した研究(arXiv:1906.08783)は、「スイフト」衛星を用いてLHS 1140がどれだけの強さの紫外線を放射しているか調べています。

太陽と比べて温度の低い赤色矮星は、可視光や近紫外線を少ない割合でしか放射しません。一方で、強い磁場に関連して、X線や短波長の紫外線(遠紫外線)の放出が比較的強いことが知られています。これらの高エネルギー放射は、周りにある惑星の居住可能性(生物が生息可能かどうか)に不利に働く可能性があります。

関連記事:赤色矮星のフレアに伴う紫外線は惑星の居住可能性を制限しない

LHS 1140は赤色矮星の中では自転周期が長く、フレア(恒星表面での爆発現象)や高エネルギー放射を伴う活動性は高くありません。一般的に恒星の活動性は時を経るとともに衰えるため、LHS 1140は年老いた星と見られています。

観測

観測に用いられた「スイフト」衛星は、2003年にNASAが打ち上げた人工衛星です。主な目的はガンマ線バーストと呼ばれる現象を発見・観測することですが、搭載されたガンマ線・X線・紫外線望遠鏡はそれ以外の研究にも利用されています。

今回の観測では、X線望遠鏡「XRT」と紫外線望遠鏡「UVOT」が用いられ、紫外線の観測については後者を活用しました。観測は近紫外線(NUVGバンド:波長177-283ナノメートル)で2017年12月から2018年2月の3か月間に17回に分けて断続的に行われました。

結果

静穏な赤色矮星

観測の目的の一つは、LHS 1140の活動に伴って紫外線に変化が生じるかどうかを調べることです。17回の観測の間でLHS 1140の近紫外線(NUV)には統計的に意味のある変化はありませんでした。またフレアの発生も見られませんでした。

研究チームは今回の観測結果を、赤色矮星の紫外線を研究した2017年のMiles氏とShkolnik氏の研究と比較しました。この研究はNUVとFUV(遠紫外線)で観測を行った「GALEX」衛星(2003~2013年)のデータに基づいています。

比較の結果、LHS 1140の紫外線の変動の大きさは、同種の赤色矮星(スペクトル型がM4~M5)の中で下位25%に含まれることが分かりました。紫外線の変動は恒星の活動性に対応するため、LHS 1140は赤色矮星の中でも静穏であることが改めて確かめられました。

惑星bの紫外線

研究チームはLHS 1140の周りにある惑星bの環境にも焦点を当てています。惑星bがどのような大気を持つかは分からないため、ここでは大気の吸収を受ける前の紫外線を前提としています。

研究では近紫外線(NUV)と遠紫外線(FUV)のそれぞれについて強さを調べました。スイフト衛星のUVOTはNUVしか観測できませんが、前述のGALEX衛星の観測では赤色矮星のNUVとFUVの相関関係が得られているため、これを利用してLHS 1140の放射するFUVを間接的に見積もりました。

その結果、惑星bに届くNUVの強さ(放射フラックス)は106.8±6.2 erg/cm2/s、FUVは32.4±7.2 erg/cm2/sでした。これは地球の値(NUVとFUVがそれぞれ6400と11.8 erg/cm2/s)と比べてそれぞれ0.017倍と2.8倍です。惑星bに届くNUVは地球と比べて大幅に弱く、FUVは比較的強いことを示しています。

FUV/NUVの比率は地球と比べて100倍以上ですが、GALEXの波長はFUV全体をカバーしていないため、より現実に即したFUV/NUVの比はこれよりさらに大きくなると見られています。

居住可能性と観測への影響

惑星bに届くNUVが弱いことは、この惑星の地表に存在するかもしれない生命にとって好都合と言えます。一方で、弱いNUVは生命の誕生には不都合な可能性があります。NUVは有機物を生成する反応を促進する働きがあるためです。ただし、赤色矮星の活動性が時間とともに衰えることを考慮すると、過去のLHS 1140は現在よりも活発に紫外線を放射していた可能性が高く、この問題は軽減されるかもしれません。

FUVは大気で容易に吸収されるため、仮にLHS 1140 bに生命が存在していたとしても影響は少ないと見られます。

ただしFUVは、観測の上で問題となる可能性があります。FUVは大気中の二酸化炭素から酸素を生成する反応をなどを促すため、バイオシグネチャー(生命の痕跡)の誤検知を引き起こすかもしれません。研究チームはLHS 1140のような静穏な赤色矮星でもFUVの影響に気を付ける必要があるとしています。


Spinelli氏らの研究は2019年6月20日にarXivに投稿され、24日に公開されました。コメントによると研究は『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』(A&A)に掲載予定ということです。

研究はA&Aに正式に掲載されました(A&A 627, A144)。

参考文献

  • Spinelli, R. et al., 2019, “The high-energy radiation environment of the habitable-zone super-Earth LHS 1140b”, A&A 627, A144. (arXiv:1906.08783v1).

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カテゴリ:居住可能性

更新履歴

  • 2019/6/25 – 作成
  • 2019/7/13 – 正式な掲載について加筆

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