強風が吹くホットジュピター?

高温のホットジュピター「WASP-76b」の大気に含まれるナトリウムを観測したという研究が公表されました。この観測では同時に、惑星の大気に高速の風が存在している可能性を示しています。

惑星「WASP-76b」は、トランジットを起こす太陽系外惑星の中でも、特に高温の惑星として知られています。(トランジット=惑星が主恒星の手前を通過すること)

このような惑星の大気を調べるには、惑星が放つ光を波長ごとに分解した「スペクトル」を観測する必要があります。しかし現在の技術では惑星のスペクトルを直接観測するのは困難です。

そこで用いられるのが、トランジット中とそれ以外の恒星のスペクトルを比較し、その「差分」として惑星大気の透過スペクトルを取り出す「トランジット分光法」です。

スイス・ジュネーブ天文台の J. V. Seidel 氏らがarXivに投稿したプレプリントは、「WASP-76b」をトランジット分光法で観測した結果を述べています。この研究は「HEARTS」という観測プログラムの第二弾としてまとめられたものです。

「HEARTS」は、南米チリのラ・シヤ天文台ESO 3.6m望遠鏡と、それに備えられた分光器「HARPS」を用いて、いくつかのホットジュピター(高温の木星型惑星)をトランジット分光法で調べるものです。

研究チームはこのプログラムの一環として、2017年10月24日と11月22日にWASP-76bに望遠鏡を向けました。これに加え、2012年に記録されていたアーカイブデータも分析に採り入れました。

今回研究チームが着目したのは「D線」と呼ばれるナトリウムに由来する光です。スペクトルの中のD線は、波長589ナノメートルの黄色光の領域にある2つの隣接した明るさの落ち込み(吸収線)として表れます。

ナトリウムは惑星大気の主要な構成元素というわけではありませんが、微量でもはっきりとした吸収線を生じさせるため、しばしばトランジット分光法のマーカーとして用いられています。

研究チームは、トランジット分光法に基づいてWASP-76の分光データを処理し、トランジット中に惑星大気由来のD線が見られるかどうか確かめました。

トランジット中のD線は、3日分のデータセット全てで、統計的に意味のある変化として検出されました。

奇妙な点として、この吸収線は理論的に予想されるより幅の広いものでした。

このような幅の広がりは、吸収線を引き起こす物質が様々な速度で動いていることを示唆します。ドップラー効果によって波長がずれた吸収線が、重なり合って1つの幅広の吸収線に見えるということです。

原因として、研究チームはWASP-76bの大気が高速で循環しているのではないかと述べています。

仮に、大規模かつ高速の風が吹いていれば、大気中に含まれるナトリウムは、ある部分では(地球上の観測者から見て)手前に近づいてくるように見え、ある部分では奥へ遠ざかるように見えます。

具体的には、惑星の自転速度を超える高速の風(スーパーローテーション)が西から東へ吹いているとしています。

なお、ホットジュピターの中には大気が流出しているものがありますが、今回は、予想される風速からして流出を捉えたものではないと考えられています。研究チームは、ヘリウムなどの原子量の小さい元素を観測すれば、ナトリウムが存在するよりさらに上層の大気を調べることができるとしています。

今回のHEARTSによる観測では、限られた情報ながら、ホットジュピターの大気循環について興味深い示唆が得られました。

HEARTSの目的の一つとして、2018年に運用を開始した世界最先端の分光器「ESPRESSO」のための予備的な観測があります。そう遠くない未来、惑星大気の研究には大きな進展があることが見込まれます。

Seidel氏らの研究は2019年1月30日にarXivに投稿され、2月4日に公開されました。arXiv投稿に付随する著者らのコメントによると、論文は米学術誌『アストロノミー&アストロフィジックス』に受理され、掲載予定とのことです。

参考文献

Seidel, J. V. et al., 2019, “Hot Exoplanet Atmosphere Resolved with Transit Spectroscopy (HEARTS) – II. A Broadened sodium feature on the ultra-hot giant WASP-76b”, arXiv:19002.00001v1.

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