
高温の地球型惑星「ケプラー408b」が、恒星の赤道面と一致しない軌道を持つという研究が公表されました。このような軌道を持つ惑星はこれまで巨大ガス惑星を中心に知られていましたが、地球サイズの惑星で確認されたのは初めてのことです。
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NASAのケプラー宇宙望遠鏡は、惑星が恒星の手前を横切る現象(トランジット)を観測するために、恒星の明るさを記録しました。そのデータは、惑星の発見だけでなく、「星震学」と呼ばれる分野でも役立っています。
星震学とは、恒星に生じる短い周期(数分~数十分)の振動を、明るさの変化などの形で観測し、恒星の性質を調べる研究分野です。これは、太陽の「5分振動」の研究に始まる「日震学」を、太陽以外の恒星に応用したものです。
今回、東京大学の上赤氏らがarXivに投稿した研究は、ケプラー宇宙望遠鏡のデータに基づいて星震学の技法を恒星「ケプラー408」にあてはめています。この星は太陽に似た恒星で、ケプラーの観測で周囲に惑星「ケプラー408b」が発見されています。
項目 | ケプラー408 | 太陽 |
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質量 太陽比 | 1.05±0.04 | 1 |
半径 太陽比 | 1.25±0.05 | 1 |
有効温度 | 6088±65 K | 5780 K |
年齢 | 47±12億年 | 46億年 |
惑星「ケプラー408b」は、半径が地球の0.86倍しかなく、ケプラーが発見した全ての惑星の中でも最小クラスです。公転周期は2.5日で、高温の地球型惑星「ホットアース」と考えられています。
項目 | ケプラー408b | 地球 |
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公転周期 | 2.465日 | 365.25日 |
質量 地球比 | 不明 | 1 |
半径 | 5490±260 km | 6380 km |
研究チームは、恒星ケプラー408の自転軸の傾きを調べ、恒星の赤道面と惑星の軌道面が明らかに異なっていることを示しました。このような不一致(ミスアライメント)は、これまで地球の4倍(海王星サイズ)より大きい惑星で多数が見つかっていますが、地球より小さい惑星で確かめられたのは初めてです。
ただしケプラー408の赤道面が星震学で調べられたのは今回が最初ではありませんでした。
まさかのスルー

今回の論文の中で、研究チームはこれまでのケプラー408の研究について述べています。
2016年のCampante氏らの研究では、ケプラー408は研究のターゲットの一つとなっていました。ここでは、ケプラー408の自転軸の傾きは54度以上で、恐らく90度に近いとされていました。つまり、当初ケプラー408bは、恒星の赤道面と一致する軌道面を持つ普通の惑星と見られていました。
(傾斜角90度で赤道を真横から眺めている状況・0度で北極または南極直上から眺めている状況を示します)
一方で、2017年のNielsen氏らの研究では、ケプラー408の自転軸の傾きは40から45度という、今回の研究と似た結論が得られていました。しかしこの研究は、恒星の自転を調べることを目的としていたため、惑星についての議論はなく、スルーされてしまいました。
新しい研究
今回研究チームは、2017年のNielsen氏らの研究で示された興味深い結果を検証することにしました。
惑星がトランジットするということは、観測者(われわれ太陽系)は惑星の軌道をほぼ真横から見る位置(傾斜角が約90度)にいることを意味します。実際に、研究チームがケプラーのデータを調べたところ、惑星の軌道傾斜角は81.85±0.10度と見積もられました。
次に研究チームは、星震学に基づいて、ケプラーが観測した光度変化にどのような周期の成分が含まれているかを調べました。光度の変化は恒星の性質に加え、自転をどの方向から眺めているかにも影響されるため、この方法で自転軸の角度を知ることができます。
その結果、われわれ観測者は、恒星を自転軸から41.7 (+5.1/-3.5) 度外れた方向から眺めていることが分かりました。これらの結果は、恒星の赤道面と惑星の軌道面が40度ほど異なっている(ミスアライメントが存在する)ことを示します。
また、研究チームは、先述の2016年のCampante氏らの研究が異なる結論になった理由として、この研究では分析の過程で観測ノイズをモデル化する際に、再現度の低いモデルを使ったことが原因だとしています。
意味するところ
ケプラー408bのような、恒星の赤道面と異なる軌道面をもつ(ミスアライメントをもつ)惑星は太陽系には存在しません。一方で、系外惑星としては多く見つかっています。ただし、大半は巨大ガス惑星で、海王星サイズの惑星も少数の例があるのみでした。
今回の発見は、この種の惑星が地球サイズの惑星にも存在しうることを示しています。
惑星のミスアライメントを説明するメカニズムは数多く提案されています。それらは、外側の惑星との過去の近接遭遇、あるいは外側の惑星から受ける様々な影響で軌道が傾斜したという説や、惑星の元となる原始惑星系円盤が最初から傾斜していたという説などです。
現状ではいずれのメカニズムも決め手に欠ける状況ですが、今後この種の惑星の観測例が増えれば、その起源を解き明かすことに繋がります。
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上赤氏らの研究は2019年2月6日にarXivに投稿され、2月7日に公表されました。arXivの投稿に付随する著者のコメントによると、論文は『アストロノミカル・ジャーナル』に受理され掲載予定ということです。
参考文献
- Kamiaka, S. et al., 2019, “The misaligned orbit of the Earth-sized planet Kepler-408b”, arXiv:1902.02057.