史上初の系外衛星「ケプラー1625b I」実在しない可能性が高まる

ハッブル宇宙望遠鏡を用いた「系外衛星」候補の観測を再分析したところ、この天体が実在する証拠は見られなかったという研究が新たに公表されました。

「太陽系外衛星」(系外衛星)とは、太陽系外惑星の周りを公転する衛星です。そのような天体は、恒星の手前を横切る惑星が恒星の光を一時的に遮る「トランジット」を捉える方法で、惑星に付随して見つけることができます。

惑星のトランジットを観測するケプラーの想像図

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観測史上最初の太陽系外衛星候補「ケプラー1625b I」は、「ケプラー」宇宙望遠鏡の主要ミッション(2009~2013年)で見つかりました。海王星並みのサイズを持つこの巨大衛星は、木星サイズの惑星「ケプラー1625b」の周りを公転しているとされています。

ケプラーの観測のみではケプラー1625b Iの実在性は不確かでしたが、2017年10月にハッブル宇宙望遠鏡を使って行われたフォローアップ観測は、この衛星が実在する可能性を大きく高めるものでした(Teachey & Kipping 2018)。

今回ハーバードスミソニアン天体物理学センターに所属するLaura Kreidberg氏らがarXivに投稿した研究(arXiv:1904.10618)は、2017年のハッブルによる観測データを再分析しています。

2017年の観測

2017年のハッブルの観測を取りまとめた2018年のTeachey氏とKipping氏の研究によると、次の2点が系外衛星が実在する根拠です。

  • 惑星本体のトランジットによる減光の後に、衛星に由来すると見られる別の減光が起きた
  • 惑星本体のトランジット時刻が予想より78分早かった(トランジット時刻変動、TTV)

ただしTTVは衛星以外の原因、例えば惑星系内にある未発見の惑星によっても普通に引き起こされます。そのため衛星由来とされる減光が本物かどうかが核心的な根拠となります。

2017年の観測はハッブルに積まれた「WFC3」という装置で行われました。生の観測データを研究に用いるには、センサーの画素ごとに記録されたデータを光度変化の時系列データに変換し(データリダクション)、その光度から計器由来の系統誤差を取り除き(デトレンディング)、その結果を統計的に分析する必要があります。

検証

今回研究チームは検証のため2018年のオリジナルとは別の方法でデータリダクション・デトレンディングを行いました。その結果得られたトランジットの光度曲線(光度変化の時系列)には、衛星の減光は見られませんでした。

「惑星のみ」と「惑星+衛星」のモデルを比べると、衛星を仮定した方が光度曲線の再現性がわずかに良くなりましたが、敢えて複雑なモデルを仮定することを正当化するほどの違いはありませんでした。

また「惑星+衛星」のモデルで予想される衛星のサイズは地球半径の3倍以下で、これは海王星並みのサイズ(地球の4倍前後)という従来の結果と矛盾しています。

食い違いはどこで生じたのでしょうか?研究チームは2018年の研究と同様のデトレンディングや統計的な分析を試したものの衛星による減光はみつかりませんでした。そのため問題はデータリダクションの過程にあるようです。

そこで研究チームはいくつかの異なるデータリダクションの方法を試しましたが結果は同じでした。最終的にデータリダクションの過程で複数の要因が重なってアーテファクト(=人工的な信号)が生じたらしいという不確かな結論しか得られませんでした。


ケプラー1625b Iの実在性を疑う研究は今回とは別にも存在します(Heller et al. 2019)。ケプラー1625b Iは、主恒星の暗さ・サイズの小ささ・トランジットの発生間隔の長さから、仮に実在するとしても検出できる限界に近い条件です。そのような観測を解釈するためには、複数のデータ処理法を試すなどの慎重な取り扱いが必要なことを今回の研究は示しています。

Kreidberg氏らの研究は2019年4月24日にarXivに投稿され、25日に公開されました。

参考文献

  • Kreiberg, L., Luger, R. & Bedell, M., 2019, “No Evidence for Lunar Transit in New Analysis of HST Observations of the Kepler-1625 System”, arXiv:1904.10618v1.

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