世紀の大発見「金星大気にホスフィン検出」は誤り?再分析で指摘

先日、金星大気にリン化合物のホスフィン (PH3) が検出されたというニュースが伝えられました。ホスフィンが金星大気に存在している理由は既知の非生物的なプロセスでは説明できず、未知の非生物プロセスか、あるいは生物由来かもしれないとして注目されています。

これに対して、ホスフィンは実際には検出されたとは言えないとする研究が新たにプレプリントとして公表されました。この研究はオランダのライデン大学に所属する I. A. G. Snellen 氏らが、2020年10月19日にarXivに投稿したものです(リンク)。

ホスフィンの検出を伝えるGreaves氏らの研究(当ブログの記事)は、チリにあるALMA電波望遠鏡群を用いて、金星が放つ微弱な電波を観測した結果に基づいたものです。Greaves氏らの分析によれば、電波のうち周波数267ギガヘルツの成分が周辺の周波数より明らかに弱くなっている(=267ギガヘルツに吸収線がある)とされました。ある化学物質はそれ固有の吸収線を示す性質があり、267ギガヘルツはホスフィン固有の吸収線と一致します。

Snellen氏らは、Greaves氏らと同一の処理方法でデータを再分析し、ホスフィンに対応した267ギガヘルツの周波数に明瞭な吸収線が存在することを改めて確認しました。しかし、Snellen氏らは、処理方法それ自体に問題があることを指摘しています。

ALMAのデータにはノイズが含まれています。Greaves氏らはこれを除去するために、吸収線が予想される周波数直近をマスキングして対象から外した上で、それ以外の周辺周波数に対して多項式近似を適用しました。そして、得られた近似式を元のデータから差し引いて、ノイズを平坦化しました。このような多項式近似を用いたノイズの軽減法自体は、広く用いられている手法です。

Snellen氏らが問題としたのは、多項式として複雑な12次式が使われていることです。多項式近似では次数が増えるほど複雑な曲線を再現可能となります。過剰に複雑な多項式では、近似式はぴったりとノイズの上をなぞる形になり、これを差し引きするとノイズは過剰に平坦化されてしまう恐れがあります。一方で、267ギガヘルツ直近は近似の対象から外すようマスキングされているため、ノイズがあっても平坦化されません。その結果、267ギガヘルツ付近に偶然存在したノイズが、過剰に平坦化された周辺部との対比で、吸収線のように見えてしまう可能性があります。

Snellen氏らは、12次式の代わりに、より単純で妥当と考えられる3次式を使って多項式近似を行いました。この場合267ギガヘルツの周辺には明瞭なノイズが残りました。267ギガヘルツ直近は周辺より少し電波が弱くなっているものの、統計的に見てノイズと区別できず、「検出した」とはみなせないレベルでした。

さらにSnellen氏らは別観点からの検証として、マスキングする周波数を267ギガヘルツからずらした上で、12次式近似で処理をしてみました。その結果、何もないはずの周波数に吸収線や輝線(※吸収線と逆に電波が強い)が誤検知されてしまうケースが複数認められました。つまり、Greaves氏らが用いた12次式近似のノイズ軽減方法は簡単に誤検知を引き起こすものであり、ホスフィンの検出は信頼できないことを示しています。

arXivへの投稿に付随するコメントによると、Snellen氏らの研究は学術誌『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』に投稿した段階だという事です。

参考文献

  • Snellen, I. A.G, 2020, “Re-analysis of the 267-GHz ALMA observations of Venus: No statistically significant detection of phosphine”, arXiv:2010.09761.

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