
生まれたばかりの星が集まる「散開星団」では、恒星の近接遭遇が頻繁に起き、恒星の周りにある惑星にも影響を与えます。これを調べたシミュレーションでは、一部の惑星は自由浮遊惑星になるものの、大半は大きな影響を受けないことが示されました。
オランダのライデン大学に所属する A. van Elteren氏らは、恒星の近接遭遇が惑星系に与える影響を調べるため、オリオン座にある高密度の散開星団「トラペジウム」を模した星団についてシミュレーションを行いました。
恒星は多数の星の集まりとして生まれます。これは「散開星団」として知られています。
シミュレーションは1500個の恒星で始まります。恒星の動きを100万年間シミュレーションした後、恒星500個の周りに惑星を4-6個、10天文単位(=地球と太陽の距離の10倍)以上の軌道に置きました。計算は合計1100万年後(惑星配置から1000万年後)まで行いました。
大半は生き残る

生成された惑星2522個の大半は、軌道に大きな変化が起きませんでした。
恒星から離れて自由浮遊惑星となったのは357個(14%)でした。恒星に再び捕らえられた自由浮遊惑星は一つもありませんでした。
惑星同士の衝突は14回(0.6%)起きました。惑星が恒星へ衝突するケースは75回(3.0%)起きましたが、シミュレーションでは単純化のため恒星から1天文単位まで近づいたものを衝突とみなしたため、この数は過大評価かもしれません。
また、恒星の近接遭遇の際に惑星が恒星を「乗り換えた」例が7つありました。
恒星の周りに留まった惑星のうち、軌道半径が10%以上変わった・または軌道が楕円(離心率0.1以上)になったものは213個(全体の8.4%)でした。
これらを除く、全体の約4分の3の惑星は、軌道に大きな変化は起きませんでした。
複雑な惑星の放出
恒星の遭遇と自由浮遊惑星の関係について興味深いことが分かりました。
357個の自由浮遊惑星のうち、半数以上は恒星の近接遭遇に伴って恒星から離れた一方、遭遇がないにもかかわらず自由浮遊惑星となったものが約100個もありました。
これらは、星団の他の恒星から受ける影響で惑星の軌道が少しずつ変化し、軌道が交差する不安定な状態になった結果、惑星が放り出されたと見られています。

軌道交差は惑星相互の重力だけでも(他の恒星の影響なしでも)起きます。しかし今回のシミュレーションでは惑星相互の重力のみでは軌道交差に至らないように安定した初期配置を用いています。これは恒星からの重力が軌道交差の原因となっていることを示します。
また恒星の遭遇に伴い惑星が恒星を離れたケースを見ると、遭遇から惑星が離れるまでの「タイムラグ」が20万年以上のケースが30個程度ありました。これは恒星の遭遇が起てもその瞬間に惑星が放出されるとは限らないことを示します。これらの惑星系では、遭遇が惑星の不安定な配置を招き、その結果として惑星が放出されるという連鎖が起きていました。
課題
シミュレーションにはいくつか課題が見つかりました。
研究チームは、惑星は100万年で形成されるという前提で、星団誕生から100万年の時点で一斉に惑星を配置しました。しかし、惑星の形成期間はよく分かっていないため、このタイミングが妥当かどうかは明らかではありません。
誕生直後の星団は恒星で混み合っており、近接遭遇が頻繁に起きますが、恒星の密度は時間が過ぎると急速に下がっていきます。そのため、仮に惑星配置のタイミングを早くすれば惑星は遭遇の影響をより強く受け、遅くすればその逆になると予想されます。
また、惑星の初期配置や質量を決めるにあたって「寡占的成長」というモデルを用いましたが、他のモデルを使えば異なる結果になるかもしれません。
今回のようなシミュレーションによる予想と、観測された自由浮遊惑星の存在頻度を比べれば、惑星の形成について重要な手掛かりが得られると期待されます。
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van Elteren氏らの研究は2019年2月12日にarXivに投稿され、14日に公開されました。arXivへの投稿に伴うコメントによると、論文は『アストロノミー&アストロフィジックス』に受理され掲載予定とのことです。
参考文献
- van Elteren, A. et al., 2019, “The survivability of planetary systems in young and dense star clusters”, arXiv:1902.04652v1.
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更新履歴
- 2019-04-09 スタイル修正・文章表現の修正・関連記事追加など