
恒星間天体「オウムアムア」には重力によらない加速が生じています。当初これはガスの放出によるものとみられていましたが、その後の研究で否定されました。
今回の新しい研究では、この一度否定された説を再考したものです。
彗星説の問題点
2017年に発見された「オウムアムア」には重力以外の要因による加速度が生じています。
この種の加速度は、ガスを放出する彗星で一般的に見られますが、オウムアムアの場合「彗星説」を否定する2つの理由があります。
理由の1つは、ガスの放出が見つからなかったことです。特に通常の彗星で検出されるはずの一酸化炭素や二酸化炭素が全く見つかりませんでした。
もう1つは、仮にガスが噴出していれば自転周期が変化するはずだということです。オウムアムアは観測された期間中、8時間周期の変光を維持していました。
新しいモデル
イェール大学に所属する Darryl Seligman 氏らがarXivに投稿した研究では、新しいガス噴出のモデルに基づいてこの彗星説を再検証しています。
従来はオウムアムアの固定された領域から噴出するガスが想定されていました。
ガスの噴出は太陽光で揮発性物質(様々な化合物の氷)が温められることで起きます。太陽光が最も強くなるのは昼の半球の太陽直下の地点です。そこで研究チームはこの地点に沿って噴出箇所が移動するモデルを仮定しました。
奇妙な動き
このモデルでは、天体の姿勢に従って、ガスの噴出が天体を回転させる力の向きが変わるため、自転速度が加速され続けることはありません。代わりに、ある範囲の自転速度の間を揺れ動くように変化します。
平面上で回転を扱った単純なモデルでは、オウムアムアが1回転を終える前に自転方向が反転します。その結果、オウムアムアは「自転」をせずに「首振り運動」を繰り返します。
この首振り運動の様子を示す動画を著者のSeligman氏がYouTubeに投稿しています。
3次元に拡張したモデルでは、ある軸では首振り運動をし、別の軸では回転するという複雑な動きが見られます。ただしこの回転が加速され続けることはなく、しばらくある方向に回り続けた後に回転が反転するという、首振り運動に似た動きを見せます。
この運動の様子を示す動画も同様に著者のSeligman氏がYouTubeに投稿しています。
新モデルによる予測
研究チームは、このモデルに基づいてオウムアムアの明るさをシミュレーションをしたところ、時折周期が乱れるものの、大半の期間でほぼ一定周期の光度変化が保たれることが分かりました。
オウムアムアの観測は断続的に行われたため、周期が乱れている期間の観測を逃すことは十分起こり得ます。
また研究チームは観測された加速度と変光周期から力学的な要件に基づいてオウムアムアのサイズを予測しました。その結果は長軸が約260mというものでした。これは明るさから推定されたサイズと一致し、この説の信憑性を高めています。
残された問題点
一方で新しいモデルはガスの不検知の問題については何ら説明をしていません。
仮にオウムアムアがほぼ水蒸気だけを放出しているとすれば、噴出により十分な加速度を得ながらも二酸化炭素や一酸化炭素が見つからないことを説明できます。
しかしそのためには揮発性物質に炭素原子がほとんど含まれないと仮定する必要があります。そのような極端な組成を生み出すメカニズムは現時点では見つかっていません。
とはいえ、今回の研究では「彗星説」の抱える問題が従来考えられていたほど大きくないことが分かりました。
彗星説以外の説明として太陽光圧による加速という説がありますが、この説もオウムアムアの非常に薄い形状や非常に低い密度を仮定しなければならない問題があります。
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今回の研究はこれらの説も含めて様々な可能性を調べる必要があることを示しています。
Seligman氏らの研究は3月12日にarXivに投稿され、13日に公開されました。著者らのコメントによると論文は『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』に掲載予定ということです。
参考文献
- Seligman, D., Laughlin, G. & Batygin, K., 2019, “On the anomalous acceleration of 1I/2017 U1 ‘Oumuamua”, arXiv:1903.04723v1.
オカルト
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