※不動蓋 (stagnant-lid) テクトニクスとは?

天体を表面の固体の動きを扱う理論を「テクトニクス」といいます。「不動蓋」(stagnant-lid) とは、天体の表面全体が一枚の殻で覆われているような状態で、これを扱うのが「不動蓋テクトニクス」です。

天体表面の岩石の動きは、地球を前提とした「プレートテクトニクス」を中心に行われてきました。しかしこの理論が扱うプレート運動は、限られた条件で現れる特殊な様態であり、岩石天体全体を見れば不動蓋が支配的な地位を占めていると考えられています。

この項目ではそのような不動蓋テクトニクスの概要について記述しています。

話の前提・地殻とリソスフェア

岩石天体の表面には地殻が存在し、その下にはマントルがあります。このよく知られた「地殻-マントル」の区別は、岩石の種類に着目して分類したものです。

地殻-マントルは岩石について考える時に便利ですが、惑星表面の「動き」を考えるときは流動性や剛性に着目する方が適しています。この考えに基づいて区分けされた、剛性の高い表面の層が「リソスフェア」、その下にある流動しやすい層が「アセノスフェア」です。一般的に「リソスフェアーアセノスフェア」の境界は、地殻-マントルの境界より深い位置にあります。

※リソスフェアの「リソ」 (litho-) は「岩石の~」という意味です。モノリスやリチウムと同根です。

※アセノスフェアの「アセノ」 (astheno-) はギリシャ語で「弱い~」という意味です。

プレートと不動蓋

地球のリソスフェアは、いくつもの「プレート」に分かれています。プレートは中央海嶺で形成され、アセノスフェアの上を移動し、プレート境界で地中深くに向けて沈み込んでいきます。このような動きを扱う理論が「プレートテクトニクス」です。

プレート運動は普遍的なものではありません。現在の太陽系でプレートテクトニクスで扱える天体は地球に限られます。水星・金星・火星は境界の無い単一のリソスフェアからなり、プレートの沈み込みや生成は見られません。このような動きを扱うのが「不動蓋テクトニクス」(stagnant-lid tectonics) です。

※「lid」(蓋)とはリソスフェアの別名です。アセノスフェアは剛性が低く対流を起こすのに対し、リソスフェアは対流を起こさないため、熱力学的に見て鍋の上に置かれた蓋のような働きをすることに由来します。

不動蓋の特徴

プレート運動は限られた条件でのみ生じる特殊な形態です。岩石天体(惑星や衛星・小惑星など)は、分割されたプレートではなく、単一の不動蓋を持つのが普通だと考えられています。

「不動」と付いているからといって、必ずしも地質学的な活動が生じないわけではありません。実際に、木星の衛星イオは太陽系で最も活発な火山活動を示す天体ですが、不動蓋テクトニクスの範疇にあります。

中程度に活発な不動蓋の例は金星に見ることができます。この天体のリソスフェアは、底部がマントルへ沈み込み、代わりにマントルから上昇流が生じるという形で変化を続けています。上昇流は時として地表に達し、火山活動を引き起こします。火星の不動蓋は金星より不活発ですが、今なお弱い活動が続いていると考えられています。

一方で、地質的な活動を停止してしまった天体も不動蓋テクトニクスの範囲に含まれます。水星や月の表面は、非常に分厚い一枚のリソスフェアに覆われ、火山活動は実質的に存在しません。

このように、不動蓋テクトニクスは様々な姿の不動蓋を内包する概念と言えます。

テクトニクスの移り変わり

ある天体のテクトニクスはその生涯を通して移り変わっていきます。集積直後の岩石天体は、表面全体あるいは大半がマグマオーシャンに覆われた状態です。

地殻やリソスフェアが形成された最初の時代には、現在のイオのような、活発な火山活動に特徴づけられる全球的な薄い不動蓋が現れると考えられています。

天体内部が冷却されるにつれ、不動蓋の動きは、金星に見られるような中程度に活発なものに変わっていきます。特定の条件を満たした一部の天体では、地球のようなプレート運動に移行するかもしれません。

冷却がさらに進み、リソスフェアの厚みが増すと、火星のようなやや不活発な不動蓋に移り変わります。そして究極的には水星や月のような「地質学的に死んだ」不動蓋に行き着きます。この運命は現在プレートテクトニクスに支配されている地球でも例外ではないと考えられています。

天体質量の影響

現在の太陽系の岩石天体を見ると、木星の衛星イオを除いて、大きな岩石天体ほど活発な地質学的活動を示す傾向が見られます。これは偶然ではありません。一般的に天体内部の冷却は質量が小さいほど効率的です。そのためテクトニクスの一連の移り変わりは質量の小さい天体ほど早く進行することになります。

木星の衛星イオは、ほぼ同じサイズを持つ月とは対照的に、今なお激しい活動を示します。これはイオでは木星の潮汐摩擦により膨大な熱が生じているという特別な事情があるためです。

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参考文献

  • Stern, R. J., Gerya, T. & Tackley, P. J., 2018, “Stagnant lid tectonics: Perspective from the silicate planets, dwarf planets, large moons, and large asteroids”, Geoscience Frontiers 9, 103.

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