プレートテクトニクスは生命進化の必須条件とは言えない

惑星が生命の進化に適した気候を持つ条件の1つとして、しばしば「プレートテクトニクスの存在」が挙げられます。今回プレートテクトニクスを持たない惑星の研究で、この種の惑星でも安定した気候を維持でき、「全球凍結」からの回復も可能なことが示されました。


地球表面の岩石は複数の「プレート」に分かれて動いています。プレート境界ではプレートの沈み込みによって地表からマントルへ炭素が取り込まれ、マントルに取り込まれた炭素は火山活動で地表へ戻ります。炭素の循環は地球の気候を安定させる上で重要です。

※ここでいう炭素は炭素原子の意味で、二酸化炭素・炭酸・炭酸塩などの化合物に形を変えながら循環しています。

このような「プレートテクトニクス」はありふれたものではなく、地球型惑星(岩石惑星)の大半はプレート運動の無い「不動蓋テクトニクス」(stagnant-lid tectonics) と呼ばれる状態にあると考えられています。不動蓋の惑星では、プレート運動による炭素循環がないため、生命が進化可能な安定した気候が成り立つためにプレートテクトニクスが必要と見る向きもあります。

しかし、近年の研究では、不動蓋の惑星でもプレート運動の場合と似た形で炭素が循環しうることが示されています(Foley & Smye 2018; Valencia et al. 2018)。

今回の研究

今回ペンシルベニア州立大に所属する Bradford J. Foley 氏がarXivに投稿した研究(リンク)は、このような不動蓋の惑星の気候について研究しています。

今回の研究は、2018年にFoley氏らが発表した同種の研究 (Foley & Smye 2018) を発展させたもので、惑星の居住可能性を調べるために「大気・海洋」「地殻」「マントル」の間での炭素の循環を扱っています。

不動蓋惑星のモデル

想定される惑星は、地球と同じ質量・組成・日射量を持ちますが、プレートテクトニクスの代わりに不動蓋テクトニクスを持ち、全体が海洋で覆われて大陸が存在しません。

※大陸が存在しないことは不動蓋とは無関係に見えますが、著者によると不動蓋テクトニクスでは海洋プレートと大陸プレートの分化が起きたいため、全体が海洋で覆われていると仮定したとしています。

不動蓋テクトニクスにおける炭素の循環
不動蓋テクトニクスにおける炭素の循環とそれに関連する要素。赤矢印が炭素の流れを表す。

モデルでは、大気と海洋の間では自由に二酸化炭素が行き来でき、大気と海洋は一体として振る舞います(平衡状態の仮定)。大気中の二酸化炭素は温室効果を通じて惑星の表面温度を決めます。

マントルで「メルト」(溶融した岩石)が発生すると火成活動が起きます。メルトには二酸化炭素が溶け込んでいるため、メルトが地表や海底に到達(火山活動)すると「マントル→大気・海洋」へ炭素が移ります。

※メルトが地表近くまで上昇し岩石と混じったものがマグマ、地表に噴出したものが溶岩になります。

※メルトには地表に噴出せずに地殻内で停止して固まるものもあります(貫入)。火山の噴火や貫入をひっくるめて火成活動と言います。

火山活動で海底に生じた岩石は、海中の炭酸と反応しこれを取り込みます(化学的風化作用)。「大気・海洋→地殻」へ炭素が移ります。

炭素を含んだ地殻の岩石が、火成活動の高温に晒されると、別の種類の岩石に変化するとともに二酸化炭素を放出します(変成作用)。このため火成活動の強さに応じて「地殻→大気・海洋」へ炭素が移ります。

火成活動により地殻が成長するにつれ最下層の地殻はマントルへ沈んでいきます。地殻に炭素が含まれている場合、「地殻→マントル」へ炭素が移ります。

マントルへ循環した炭素は前述のように火山活動で「大気・海洋」へ戻っていきます。

結果

結論から言えば、地球と同様の条件を当てはめた場合、約20億年間に渡って居住可能な環境が続くという結果になりました。

この期間は、誕生から46億年経った今もなお居住可能な環境を保っている地球と比べると短いものですが、複雑な生命の進化が不可能な短さではありません。そのため今回の研究は不動蓋テクトニクスの惑星でも生命が進化可能なことを示していると言えます。

※地球生命は誕生から複雑な多細胞生物に至るまで30億年以上を要しましたが、この進化の速度が遅いのか速いのかは明らかでありません。進化の速度にばらつきがあるであろうことを考えると、20億年というのは十分ありえる範囲です。

モデルの振る舞い

以下ではこの研究で見られた不動蓋惑星の振る舞いについて述べています。

このモデルで再現された惑星は、地球に見られるようなプレート運動が存在しないにも関わらず、本質的に安定した気候を持ちます。その原理はプレート運動を持つ地球と似たものです。

大気中からの二酸化炭素の除去は風化作用が担っています。惑星の表面温度が高くなると風化作用は強くなります。

一方で、大気中へ二酸化炭素を供給するメカニズムは、元を辿ればメルトの発生に支配されています。メルトの発生は表面温度とは無関係です。

地表が暖かくなると風化作用が強まり二酸化炭素が減ります。このため温室効果が弱まって気温上昇を抑えます。表面温度が下がろうとしたときは逆のことが起きます。

これは不動蓋の惑星でも地球と同様の気候を安定化させるメカニズムが働くことを示しています。

プレートテクトニクスとの違い

プレートテクトニクスではプレートの沈み込みによって炭素がマントルにリサイクルされます。これに対して不動蓋テクトニクスでは炭素の循環は主に「大気・海洋」と「地殻」の間で起き、マントルの関与は限定的と見られます。

不動蓋テクトニクスでも地殻の底部はマントルへ沈み込んでいきます。しかし今回のモデルでは、沈み込みが起きる前に、火成活動に伴う変成作用で地殻から炭素が放出されるため、マントルへリサイクルされる炭素は多くないと予想されます。

マントルへの炭素の供給が限られているということは、火山活動で地表に放出される二酸化炭素も少ないことを意味します。火山活動はマントルで発生するメルトにより引き起こされるからです。

条件の範囲

Foley氏はどのような条件で安定した気候が得られるかを調べるため、条件を変えた計算を行いました。その結果、特に炭素の豊富さと放射壊変熱の条件が重要なことが分かりました。

条件その1、炭素の豊富さ

惑星に含まれる炭素原子の量が、地球の数十分の1~10倍の範囲であれば、安定した気候が長く(10億年以上)続くことが示されました。

炭素が多すぎる場合、風化作用で取り除けない量の二酸化炭素が大気・海洋系に供給されるため、やがて惑星表面は灼熱の世界になります。少なすぎる場合、惑星は十分な温室効果を得られずに凍り付きます。

上記の範囲内であれば、炭素の量が増えるほど安定した気候が長続きする傾向にあるものの、その影響はわずかです。量の大小より「範囲内にあること」が重要です。

条件2、放射壊変熱

もう1つの重要な条件は、惑星内部に放射性元素が豊富に含まれることです。

研究では、惑星の居住可能性が10億年以上続くには、放射性元素の壊変熱(惑星形成時点での初期値)が地球と同等かそれ以上必要だと見積もられました。

※放射壊変熱の発生は時間とともに弱まっていくため、初期値で比べる必要があります。

これは次の理由によります。気候が安定化するには、炭素の循環が必要です。この循環を駆動するには、火成活動を促すに十分な熱が惑星内部になければなりません。

惑星内部が冷めることは避けられないため、炭素循環には「寿命」があります。今回の研究では、この寿命が、居住可能な環境を制限する最も重要な要素であることが示されました。

寿命が避けれないとして、問題はそれまでに生命の進化に十分な期間(数億年~数十億年)があるかどうかです。

この観点からすると、惑星内部に豊富に放射性元素が存在していることは寿命を引き延ばす上で好都合です。放射壊変熱は惑星内部の主要な熱源だからです。

仮に放射壊変熱が少なすぎる場合は、惑星はごく短い期間(数億年以下)しか炭素循環を保てません。

一方で放射壊変熱は、少なくとも今回の研究で調べられた範囲内では、多すぎて困ることはなく、多ければ多いほど炭素循環を長続きさせることができます。

仮に放射壊変熱の初期値が地球の2.5倍あれば、居住可能な環境を50億年以上保つことも可能と見積もられています。

この他の条件として、例えばマントルの粘性が高いと炭素循環が長続きすることも示されています。粘性の高さはマントル対流による熱の輸送を妨げ、惑星内部の冷却を遅くするためです。

スノーボールからの脱出

今回の研究では、不動蓋の惑星が全球凍結(スノーボール状態)から抜け出せるかどうかも調べられました。

全球凍結とは惑星の海洋がほぼ全て凍り付くことです。氷は日射を反射してエネルギーの吸収を妨げるため、全球凍結状態から抜け出すには、大気中に大量の温室効果ガスが蓄積する必要があります。

※地球は過去に少なくとも3回全球凍結を経験し、その都度抜け出しています。

研究では全球凍結の状態として2つの状態を仮定しました。1つは不完全な全球凍結 (soft snowball state) で、大気と海洋が完全には遮断されない想定です。

2つ目は完全な全球凍結 (hard snowball state) で、大気と海洋が氷の層によって完全に遮断され、二酸化炭素のやり取りが不可能になった状態です。

不完全な全球凍結

全球凍結になると、海洋中の二酸化炭素を取り除く風化作用はほとんど停止します。一方で火成活動が続いていれば、火山活動や変成作用による海洋・大気への二酸化炭素の供給は続きます。

大気と海洋で物質のやり取りができる不完全な全球凍結では、海洋中に炭酸として放たれた二酸化炭素が大気に至ることに障壁はありません。

そのため、不完全な全球凍結が起きたとしても、前述の炭素循環の寿命内であれば、多くの場合は抜け出せるという結果になりました。

完全な全球凍結

一方で、今回の研究では完全な全球凍結に陥った場合、その状態から抜け出すことはほぼ不可能という結果になりました。

完全な全球凍結は、大気と海洋の間で物質が行き来できなくなるという条件です。つまり海洋に放たれた二酸化炭素は大気に達することはできず、大気中に直接放出された二酸化炭素のみが温室効果に関わります。

大気に直接二酸化炭素を放出しうるのは火山活動です。前述のように、不動蓋の惑星では海洋・地殻の間でのやりとりが炭素循環のほとんどを占め、マントルから火山活動の形で大気に送られる炭素は限られています。

これは完全な全球凍結下で不動蓋の惑星は十分な温室効果ガスを得ることの難しさを意味しています。


今回の研究では気候を安定させる炭素循環が不動蓋の(=プレート運動を持たない)惑星でも働くことが示されました。

また、全球凍結状態に陥ったとしても、完全な全球凍結に陥らなければ、その状態から抜け出しうることも分かりました。

予想される炭素循環の寿命は比較的短いものですが、放射性元素の壊変熱やマントル粘性などの条件によっては、地球の年齢を超える期間に渡って循環を保てると推定されています。

今回のモデルは地球と同じ質量・組成・日射量の惑星を想定しており、研究で取り扱う条件を広げる余地は大いに残っています。しかし少なくとも「プレートテクトニクスが存在すること」という条件を惑星の居住可能性の前提に付け加えるべきではないと言えます。

現在の技術では小さな地球型惑星がどのような環境を持つのか直接観測することは不可能です。Foley氏は今回のようなモデルを応用すれば、主恒星の年齢や元素組成を調べることによって惑星が生命に適した環境かどうかを間接的に推定することが可能になるとしています。

Foley氏の研究は2019年3月28日にarXivに投稿されました。

参考文献

  • Foley, B. J., 2019, “Habitability of Earth-like stagnant lid planets: Climate evolution and recovery from snowball states”, arXiv:1903.12111v1.

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