最も若い系外惑星「おうし座V830b」は存在しなかった?

おうし座V830はおうし座にある変光星です。この星は「Tタウリ型星」に分類される若い星で、生まれてから200万年しか経っていません。2017年、この星の周りに太陽系外惑星「おうし座V830b」が報告され、既知の系外惑星のうち最も若い部類に入ることから注目を集めました(Donati et al. 2017)。この惑星は木星の6割の質量と4.93日の周期をもつホットジュピター(高温の木星型惑星)とされています。

2017年の発見は視線速度法(※惑星の公転運動に伴い恒星の奥行き方向の速度が周期的に変動するのを検出する方法)によるもので、ハワイにあるCFHT望遠鏡と観測装置ESPaDOnSなどのデータに基づいていました。おうし座V830のような若い星は、恒星本体に由来する大きな視線速度のノイズが観測されるため、そこから惑星に由来する成分を取り出すのは至難とされます。2017年の研究では巨大黒点などにようる恒星表面の不均一性をモデル化することにより惑星に由来する振幅70 m/sの変動を検出できたとされていました。

イタリア国立宇宙物理学研究所 (INAF) に所属する M. Damasso 氏らの研究グループは、この興味深い発見を追認するために、スペイン・カナリア諸島にあるイタリア国立ガリレオ望遠鏡と観測装置「HARPS-N」を用いて2017年よりおうし座V830の観測を行ってきました。これは同望遠鏡を用いた系外惑星の包括的な観測プログラムである「GAPS」の一環でもあります。その結果はプレプリントとして2020年8月21日にarXivに投稿されました。

研究チームはおうし座V830の厳しい観測状況を考慮し、複数の分析方法を採り入れて慎重に観測データを分析しました。その結果、恒星由来の変動の他には惑星に由来するような変動は見つかりませんでした。架空の惑星による変動をデータに付け加えてそれを検出できるか調べるシミュレーション(injection-recovery simulation)も行いましたが、それによると2017年に報告された振幅 70 m/s 程度の変動では恒星由来のノイズに埋もれてしまい検出は難しいことが分かりました。

今回の研究はHARPS-Nのデータを対象とし、2017年のデータの再分析は行われませんでした。そのため食い違う結果になった理由ははっきりしません。影響しうる要素として、2017年以降、主恒星の活動性が強まり、ノイズが増大傾向にあることが挙げられます。ただし、それを考慮しても、HARPS-Nは2017年の観測より精度が高く、観測期間・観測タイミングも惑星検出に適するように配慮されていたことから、おうし座V830bは実在しない可能性が高まったと言えます。

おうし座V830のような若い惑星系を発見することは惑星形成論に制約を与える上で重要ですが、近年では若い惑星系の発見が報告されて後に実在に疑問が呈される例が相次いでいます。そのため視線速度法を頼りに若い惑星を検出するのは特別な注意が必要とされています。

arXiv投稿の際のコメントによると、Damasso氏らの研究は学術誌『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』に受理されたということです。

参考文献

  • Damasso, M. et al., 2020, “The GAPS Programme at TNG XXVII. Reassessment of a young planetary system with HARPS-N: is the hot Jupiter V830 Tau b really there?”, arXiv:2008.09445.

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