次世代の超大型望遠鏡「WAET」

極めて細長い主鏡を用いる「WAET」望遠鏡は、2018年に提案された、低コストと高い分解能を備える次世代の巨大望遠鏡です。

WAETの構造

天体望遠鏡の大型化は性能向上の有効な手段です。現在、計画・建造が進められている3つの超大型望遠鏡(20~40m級、ELTs)は、このコンセプトを具現化したものです。しかし、望遠鏡の建造コストは主鏡直径のおよそ2.6乗に比例して急激に増大するため、望遠鏡の大型化には限りがあります。

アメリカのケース・ウェスタン・リザーブ大学に所属する Benjamin Monreal 氏らがarXivに投稿したプレプリントは、「WAET」と呼ばれる新しい種類の天体望遠鏡について記述しています。このプレプリントは2020年代の天文学上の技術的課題について調査する「Astro2020」向けに白書として書かれたものです。


2018年にMonreal氏らが提案した「WAET (Wide Aperture Exoplanet Telescope) 」は、極めて横に長い主鏡を用いた独特の構造によって、大型化に伴う問題の解決を試みた可視光・赤外線地上望遠鏡です。

この望遠鏡の特徴は2つあります。1つは、円形あるいは多角形の主鏡を用いる従来型の望遠鏡と比べて、大幅な低コスト化が可能なことです。もう1つは主鏡の長軸方向に極めて高い空間分解能(解像度)を発揮できることです。これらの特性のため、WAETを用いれば、低コストで地球サイズの系外惑星を直接撮像できると主張されています。

基本構造

WAETの構造
WAETの構造

WAETでは、天体の光はまず細長い平面鏡で望遠鏡のシステムに入射し、そこから主鏡・副鏡と反射され、三次鏡や観測装置へ向かいます。主鏡は地面に垂直に湾曲した壁のような形で配置された細長い分割鏡からなります。

通常の望遠鏡は望遠鏡全体を目標に向ける必要がありますが、WAETでは、仰角の制御は平面鏡を傾けることによって・方位の制御は主鏡全体をレールに沿って左右に旋回させることによって行います。

WAETは指向範囲が限られるものの、平面鏡を十分に大きくすれば夜空の大半をカバーできます。例えば平面鏡の高さを主鏡の2倍・幅を1.15倍とすれば、仰角は120度(天頂を越えて30度)・左右30度ずつの角度をカバー可能です。

WAETは一見して奇妙な姿をしていますが、円形の主鏡の代わりに細長い長方形の主鏡を使用していることと、仰角の制御を平面鏡に頼っていること以外は、通常の反射望遠鏡と根本的な違いはありません。

またWAETは「クラウス型」電波望遠鏡に似ますが、可視光・赤外線での使用を前提としていることと、主鏡が左右に旋回できる点が異なっています。

特徴

WAETには、通常の望遠鏡と比べて、大幅に低コスト化を期待できる特徴が備わっています。

通常の大型望遠鏡は、ターゲットを追尾する間、主鏡の姿勢が変わり続け、これに伴って主鏡が自重で歪みます。それを補正するには高度な補正システムが必要です。一方でWAETの主鏡は地面に直立したまま左右にのみ移動します。主鏡に掛かる重力が一定に保たれるこの構造のおかげで補正は最小限で済みます。

平面鏡は傾きに伴い変形しますが、鏡自体が平面でなおかつ短辺側にのみ傾く構造のため、技術的に補正は難しくありません。

主鏡や平面鏡の製造は現在の技術で十分に製造可能なものを用いることができます。これに加えて、主要構造の背を低く抑えられることで、ドームやその他の高コストな建造物が不要になるという利点もあります。

課題

一方で地面に張り付くようなWAETの構造は短所ともなります。平面鏡からシステムに入射した光は、主鏡・副鏡(設計によってはさらに第三鏡)と往復する間、地面すれすれを通過し続けます。そのため通常の望遠鏡と比べて、地面からの熱などに由来する気流の乱れに敏感です。

研究チームによると、この効果がどれほどの悪影響をもたらすのかは現時点で未知数です。解決のためのアイデアとして、望遠鏡を建屋で覆い空調を制御すること・主鏡や平面鏡を嵩上げして地面から離すこと・能動補正を採り入れることが挙げられています。性能と低コストを両立させるうえでどのような手段が最適なのかは、これからの詳しい調査が必要です。

具体例とコスト

研究チームはWAETの具体例として、100メートル級の「hWAET」(主鏡幅100m×高さ2m)と、本命である「kWAET」(300×5m)の2段階を想定しています。


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