ホットジュピターの赤外線観測・「見えなかった」で分かること

ホットジュピター「HAT-P-32b」が恒星の奥に隠れる際の減光を近赤外線で調べた研究が公表されました。この観測では、これまで系外惑星で測定されたことがなかった波長帯で、反射能が上限値として求められました。

独ポツダム天体物理研究所のM. Mallonn 氏らがarXivに投稿した研究は、ホットジュピター(高温の木星型惑星)の1つであるHAT-P-32bの「掩蔽」を近赤外線で観測したものです。

主恒星の至近距離にあるホットジュピターには、惑星が恒星の奥に隠れる現象(=掩蔽)を起こしているものがあります。掩蔽中は惑星の光が隠されるため、その減光を調べれば惑星の明るさを知ることができます。

関連記事:系外惑星の観測方法#掩蔽の観測

HAT-P-32bは2011年に発見されたホットジュピターで、2000ケルビン(約1700℃)に近い高温の大気を持ちます。太陽に似た恒星「HAT-P-32」の周りを公転しています。

項目HAT-P-32太陽
スペクトル型F-G
G2 V
質量
太陽比
1.18 ±0.081
半径
太陽比
1.39 ±0.071
有効温度
ケルビン
6001 ±885780
年齢
億年
38 ±546
項目HAT-P-32b
公転周期
2.150 008
±0.000 001
軌道長半径
天文単位
0.0343
±0.0004
質量
木星比
0.86 ±0.16
半径
木星比
1.789 ±0.025

研究チームは、カナリア諸島にあるSTELLA望遠鏡(口径1.2m)を使ってHAT-P-32bの掩蔽を11回観測しました。観測はいずれも「z’バンド」と呼ばれる近赤外線波長帯(波長900ナノメートル周辺)を通して行われました。

分析の結果は「何も見えなかった」というものです。恒星に対する惑星の相対的な明るさ(=掩蔽による減光)は-0.000 6±0.010 4 %と計算されました。これは統計的に意味のある現象は検知されなかったことを示します。

掩蔽が検知できないということは、惑星が「暗い」ということです。上限値としては、「惑星の明るさは97.5%の可能性で恒星の0.0198%以下」と見積もられました。

惑星の光は反射光と熱放射で構成され、反射光は主に可視光として、熱放射は主に赤外線として放たれます。今回用いられたz’バンドは両方が入り交じる領域であり、惑星の暗さは反射も熱放射も弱いことを示しています。

HAT-P-32bがz’バンドで観測されたのは初めてですが、より長波長の赤外線で見られる熱放射は既に調べられています。研究チームはこれらのデータを複数の大気モデルに当てはめ、今回観測された惑星の明るさを説明できるか調べました。

また、惑星が恒星の光を反射する度合いを示す「反射能」は、惑星の明るさと熱放射から逆算できます。

これらから次のことが明らかになりました。

  • 惑星の大気層は「高度により温度がほぼ変化しない(等温モデル)」か「高度が上がるほど温度が上がる(逆転層モデル)」で説明できる一方、「高度が上がると温度が下がる」というモデルは観測に矛盾する。
  • 惑星のz’バンドにおける反射能(幾何反射能)は0.2以下。

研究チームによると、太陽系外惑星のz’バンドにおける反射能が求められたのは初めてです。またHAT-P-32bの反射能(波長問わず)が求められたのも今回が初めてということです。

反射能の低さは何を意味するのでしょうか?

掩蔽が起きるとき惑星は昼の半球を手前(観測者側)に向けているため、掩蔽の観測は惑星の昼の半球について見ていることになります。

前述のように、HAT-P-32bの大気は等温かあるいは逆転していると見られます。これは大気上層に存在するケイ酸塩の雲が恒星の光を吸収して大気を温めているのが原因とする説明があります。これまでの研究によれば、大気中に平均粒子サイズ0.5マイクロメートルのケイ酸塩の雲が存在すれば、ホットジュピターの幾何反射能は可視光から近赤外線までの広い範囲で0.4前後の高い値になるはずです。ただし、雲の粒子が小さければ近赤外線での反射能は低くなります。

これらの考察から、研究チームは、HAT-P-32bの昼の半球には0.5マイクロメートルより平均粒子サイズの大きいケイ酸塩の雲は存在しないものの、より小さい粒子サイズのケイ酸塩は存在するかもしれないとしています。

研究チームは、既存の観測データを用いて、HAT-P-32bと同様の分析を他の4つのホットジュピターで行いました。結果として4つとも低い幾何反射能が上限として求められました。

惑星幾何反射能
HAT-P-32b0.20以下
WASP-12b0.38以下
WASP-19b0.21以下
WASP-103b0.16以下
WASP-121b0.37以下

これまでz’バンドにおける反射能を調べた研究はありませんでしたが、研究チームは今回と同等の観測精度が得られれば、12個の比較的明るい(14等級以上)の恒星について惑星の反射能をz’バンドで検出できると考えています。今回のような限られた波長帯で掩蔽を調べる技法は、暗い恒星や小型の望遠鏡でも利用でき、ホットジュピターの性質を解き明かす有用な手段となります。

Mallonn氏らの研究は2019年2月21日にarXivに投稿されました。arXiv投稿時のコメントによると、研究は『アストロノミー&アストロフィジックス』に受理され、掲載予定とのことです。

参考文献

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