「褐色矮星砂漠」はどこに広がっているのか?

「褐色矮星砂漠」とは、ある範囲の性質を満たす褐色矮星がほとんど存在しないことを指す言葉です。今回の研究ではその詳しい範囲が明らかになりました。

褐色矮星砂漠の位置

褐色矮星は惑星と恒星の中間質量をもつ天体です。その定義は曖昧ですが、太陽質量の0.013~0.080倍(木星質量の13~80倍)という基準がよく用いられています。

恒星の周りにある伴星や惑星を対象とした研究では、恒星や惑星と比べて褐色矮星は存在頻度が少ないことが分かっています。この褐色矮星の少なさは「褐色矮星砂漠」と呼ばれています。

近年この「砂漠」は、伴星として恒星の周りを回っている褐色矮星のうち、公転周期が短い(≒軌道が小さい)ものに限って見られることが分かってきました。ただし砂漠の範囲、特に砂漠に該当する褐色矮星の質量は、まだ詳しく知られていません。

研究

褐色矮星の想像図
恒星の周りを公転する褐色矮星の想像図

イスラエルのテルアビブ大学に所属する S. Shahaf 氏と T. Mazeh 氏がarXivに投稿した研究(arXiv:1905.13239)は、「APOGEE」サーべイの結果に基づいて、褐色矮星砂漠の範囲を詳しく調べています。

APOGEEは、2011年から2014年にかけて1万4600個の恒星のスペクトル(=光の波長ごとの強さ)を調べた大規模サーベイで、ニューメキシコ州アパッチポイント天文台1m望遠鏡を使って行われました。そのデータは様々な用途に用いられています。今回の研究では、褐色矮星を含む「分光連星」(スペクトルの変化で存在が分かる近接した連星)を調べるために用いられました。

サンプルとして用いられた116個の連星系は、APOGEEサーベイのデータを用いた2016年のTroup氏らの研究(Troup et al. 2016)で用いられたサンプルのうち、比較的温度の低いの主系列星(膨張していない通常の星)を抜き出したものです。

砂漠の範囲と形

116個のサンプルを分析した結果、「褐色矮星砂漠」の存在が改めて確かめられました。この砂漠は、公転周期-質量のグラフで見ると、公転周期の短い側に向けて広がる「くの字形」あるいは「台形」で表すことができます。

褐色矮星砂漠の位置
Shahaf & Mazeh 2019に基づく褐色矮星砂漠の位置。縦軸は質量ではなく主星との相対的な質量を表し、研究の対象となった主星の質量は太陽の0.5〜1.0倍に分布する。研究では砂漠の境界として2種類の形状(黒細実線:底が傾いたもの・赤太破線:底が水平なもの)が提示されている。

砂漠の範囲は公転周期25日以下に限られます。これより周期の大きい星では、質量が大きいものから小さいものに向かうにつれ連続的に存在頻度が減っていました。

質量の範囲でみると砂漠は最大で0.02~0.2太陽質量の範囲に広がっていました。これは一般的な褐色矮星質量の上限(太陽質量の0.08倍)を超え、低質量の恒星にまで及んでいます。

太陽質量の0.08倍という基準は、天体内部で軽水素核融合が起きるかどうかで区切られたものです。この結果は砂漠を形作るメカニズムは天体内部とは関係が無いことを示しています。

砂漠の成因

研究チームは、砂漠の成因としては大きく分けて2つの考え方があるとしています。

1つは、伴星には質量分布の異なる2つのグループが存在し、その分布の「隙間」が砂漠として表れているという考え方です。この場合、公転周期25日以上で砂漠が無くなるのは、公転周期が大きくなると2つのグループが重なるためと考えられています。

別の説では、最初「砂漠」の中にあった天体が何らかの理由で砂漠から取り除かれるという考え方です。「取り除かれる」とは、例えば主恒星に墜落して天体自体が消滅すると考えることもできますし、質量あるいは周期が変化して天体が存続したまま砂漠の範囲外の性質を持つようになると考えることもできます。

関連記事:史上最短周期の褐色矮星が見つかる

どのメカニズムが正しいかを見分けるには、伴星の質量・公転周期に加えて、主恒星の性質(質量・金属量)と砂漠との関りを調べることが有益です。また、今後「ガイア」衛星が分光連星のカタログをリリースする予定であり、分析の対象となるサンプルが大幅に増えることが期待されています。


Shahaf氏らの研究は2019年5月30日にarXivに投稿され、6月3日に公開されました。コメントによると研究は『王立天文学会月報 (MNRAS)』に掲載予定ということです。

参考文献

  • Shahaf, S. & Mazeh, T., 2019, “Study of the Mass-Ratio Distribution of Spectroscopic Binaries. II. The Boundaries of the Brown-Dwarf Desert as Seen with the APOGEE Spectroscopic Binaries”, arXiv:1905.13239.

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カテゴリ:褐色矮星

更新履歴

  • 2019/6/3 – 作成
  • 2019/6/23 – 関連記事・画像追加

「「褐色矮星砂漠」はどこに広がっているのか?」への2件のフィードバック

  1. 褐色矮星ってM型の赤色矮星よりもずっと多く存在するのかと思ったら、そうじゃないんですね。恒星は質量が小さくなるほど数が増えるから、その延長線上にあるものだと想像してたんですよね。

  2. 連星系伴星として存在するものは砂漠の外でもあまり多くないようです。ただ連星の主星の質量によって頻度が変わったり、単一星の褐色矮星ではそもそも発見が困難だったりして謎が多いですね。

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